W杯アイルランド戦での福岡堅樹による逆転トライ。テレビで何回も放送されているので覚えている人も多いかと思いますが、このトライの起点は日本代表ボールのスクラムです。
日本代表がマイボールスクラムから十八番(オハコ)のサインプレーでチャンスメイク。
その後の攻撃で福岡のトライが生まれました。
今回はこの日本代表のサインプレーに注目してみたいと思います。
このプレーが生まれたのは後半18分(スコアは日本9−12アイルランド)。
スコットランド陣22mライン内側(右サイド)での日本ボールのスクラムからでした。
(数字は背番号ではなくポジションを表しています。)
日本代表はハーフ田中がスタンドオフ田村を飛ばして、センター中村にフラットなパス。
中村は相手センター陣の間に突っ込みます。
そこで、タテへのスピード強さを活かしてゲイン。もう一人のセンターのラファエレとオープンサイドフランカーのラブスカフニが素早くラックに入りボールを確保します。
中村が作ったラックから田中がボールを持って逆サイドに出ます。
そこで、内に走り込んできたウイングのレメキにリターンパス。
レメキはラックサイドを切り裂いて、ゴールライン直前まで迫りました。
ここまでが、デザインされた一連のサインプレー(選手のインタビュー記事などから推察)。
レメキが作ったポイントからはFW陣がサイドを何回か突いてから左に展開。
最終的に福岡のトライにつなっがたというわけです。
一連の攻撃はスクラムにボールが投入されてから福岡のトライまで32秒の出来事でした。
この32秒間に日本代表アタックコーチ「トニー・ブラウン」の知恵が詰まっています。
このサインプレー、1次攻撃、2次攻撃ともパスは1回だけ。
それで効果的にゲインラインを切っているんですね。
パスの回数が増えれば、それだけミスが起きる確率も増えます。
ミスといってもノッコンのような目に見えるミスだけではありません。
意図した位置よりもパスをもらった位置が後ろだったというのもミス。
位置は良かったがタイミングが遅くなったというのもミス。
パスが一回なら、こうしたミスが起きる可能性を減らせるというわけです。
さすがですね。
通常はパスの回数が少ないと防御側はディフェンスしやすくなります。
ところが、このサインプレーではそうではないんですね。
1次攻撃で日本代表のセンター中村はアイルランドのセンター陣のあいだに突っ込んでいます。
このためアイルランドは、次の攻撃に備えて、薄くなったバックスラインの右サイド(アイルランドから見て)を埋めるためとフォワード陣が戻ろうとします。
ところが、日本代表のスクラムハーフがラックからボールを持って左に走ります。右サイドに戻ろうとしていたアイルランドFWは、いやこっち(左)だと右への動きを止めるわけです。
そこで、日本代表は田中からレメキへのリターンパス。
アイルランドにしてみれば、やっぱり右だったのかとなりますね。
「右だ→いや左だ→違うやっぱり右だ」と振り回されたのがアイルランド。
途中で「いや左だ」と思わす田中の動きが入っているのがポイント。
この動きがあるので、FW陣が右へフォローに走るのが遅れてしまっているのです。
その分、右サイドのディフェンスが薄くなります。
日本代表はその薄くなったほうを連続して突いて、最終的に福岡がトライ。
事前にデザインされた一連のプレーだといえます。
ちなみに、このサインプレーを日本代表はスコットランド戦でも使っています。
起点はラインアウトからでしたが、1次攻撃と2次攻撃は同じパターン。
ただし、そのときのスクラムハーフは流で、2次攻撃で突っ込んだウイングは松島でした。プレイヤーが変わっていても使うのは、代表チームとして練り上げたプレーだと思われます。
トライまでの32秒。
何度見ても味わい深い一連のサインプレーです。